なんで言えなかったんだろう。


私はシトルイユ家の娘だから、ハロウィンの日までに誰かとキスをしないと、消滅します。って。


いや、そこまで説明しなくても、シトルイユ家の掟っていえば分かったのかも知れない。


言葉について書かれた黒板をぼうっと見つめながら、カルアは考える。


どうも調子がくるっている。消滅を告げられて一日目だからかしれないけれど、いつものあの明るくて天真爛漫なカルアはどこにもいない。


普段なら、むしろ好奇の目線を向けられてもウェルカムだったはずだ。なぜなら、目立つことが大好きだから。


おしとやかに静かに、よりも元気いっぱいに外を駆けまわりたい。


テーブルマナーを学ぶより、みんなと一緒にお弁当を食べたい。


………そんな私が、こんなにしおらしくなるなんて、やっぱりどこか理解が追いついていないのかもしれない。


ふう、とため息を着いたタイミングで、先生に見とがめられた。


「シトルイユさん、ちゃんと先生の話を聞いてくださいね」


「はーい。すみません」


そんな短いやりとりのなか、先生も…カルアに好奇の目線を向けている気がする。


たとえ気のせいだとしても、なんとなく気分が悪かった。