それは、小さなこの町で、太古から受け継がれてきた悲しみの物語。


名家シトルイユ家に生まれた子は、十五歳のハロウィンまでに愛する人とくちづけを交わさなければならない。


さもなければ、先に待つのは「消滅」だと。


そして親は、それらしいことやその掟についての文献などを子供にそっと、気が付かれないように与えないといけないと。


自らの運命は、自らで決めなければならない。そのための知識も、自分で見つけなければならない。それも、第二の掟のようなもの。


たいていの場合、13歳ほどで気が付いて、適当な男と愛をはぐくんで、15歳までにその物語を乗り越える。


しかしたまに、自らの運命に気が付けないものもいる。その者たちに対しては、ハロウィンの二十日前に救済措置が与えられる。


自らの運命を教えてもらうのだ。二十日間で愛する人を見つけて、くちづけを交わすのだ。


皮肉なことに、シトルイユ家の子供を愛する人は、その街にたくさんいる。シトルイユ家と結ばれたものは、幸せになれると…そんなうわさがいつしかたつようになっていたから。