窓の外を眺めながら、そんな数日前の出来事を思い出していた。



太陽は、別の場所で朝を告げる準備を始める。

月や星に光を託して…




「あ!やばっ!遅くなっちった!」


そう言って、少年は駆け足でドアの方へと急いでいく。


だけど、
ドアに手をかけると少し立ち止まってこちらを振りかえった。


屈託のない笑みでニカッっと笑ってみせると



「また来るね!おねぇちゃん」




まだタッちゃん入院しちゃっててつまらないから――




そう付け加え、勢いよく部屋を出ていった。



病院は走っちゃダメだよ!なんて、もうすでに遠退いていく足音に注意するのを諦めた。



タッちゃんはお見舞いに来た友達なんだろうね。とか


あのコはいったい何だったんだろう。とか


名前は何て言うんだろう。とか


あの言葉は………。とか




彼はいろんな気持ちを連れては、この部屋に置き去りにしていった。





窓の外では

山や家が黒い輪郭を作り、
空は名残惜しそうに彩られ、

景色を曖昧にさせていた。



その中では、はっきりさせたものなんてどうでもよくて、本当とか嘘とか考えないでいいんだ。



ずっとこんな世界だったら楽なのに………。




そしたらきっと記憶なんて、ないままに過ごせるのに………。