「眠るの、嫌。」
「大丈夫、俺もすぐ、そっちにいくから。」
その言葉を聞くなり、安心した表情になり凛音の頭が重くなった。きっと眠りに落ちたのだろう。月明かりに照らされ、穏やかな寝息をたてて寝ている彼女は、まるで女神のようだ。
 倉科は薬を飲んでいないため、勿論意識がはっきりしている。自分の脚で、もっと深いところへと歩いていく。凛音に薬を飲ませたのは、せめて苦しい思いをしないように。幸せな世界で目を覚ませるように。


なぜこんな事になってしまったのだろう。衝動的に、意味もなく心中しようとした訳ではない。ただ、辛かったのだ。2人の関係は誰も幸せにしない。祝福するものは誰もいない。明かりの下を堂々と歩く事も出来ない。
凛音は倉科から離れられない。倉科は凛音を選んでも、妻と子供を捨てることは出来ない。お互いがお互いを苦しめる。まるでドラッグのように。愛し愛されている内は幸福感で満たされる。しかし、1人になると、きっと一般人には理解出来ないであろう虚無感と罪悪感が一気に襲いかかってくる。もう愛さえも苦しいのだ。早く苦しみから開放されたい、その思い一心で2人は海へ脚を踏み入れた。