「…由衣。おはよう。」
「どうして昨日の夜帰ってこなかったの?」
5歳の娘が涙目で問う。その姿に、胸が締め付けられるように痛くなった。
「ごめんな。今度みんなでご飯でも食べに行こうか。由衣は何が食べたい?」
「由衣ね、ハンバーグが食べたい!」
「はは。じゃあハンバーグ食べに行こう。」
最後まで、娘の目を真っ直ぐ見つめることはできなかった。
自室に戻ると、1人がけソファに深く腰掛けた。そして再び後悔の念に苛まれることになるのだった。
優子との出会いは8年前。当時25
歳だった倉科と、20歳だった優子。倉科の一目惚れだった。そこから熱心なアプローチを続け、その2年後に見事プロポーズは成功。さらに2年後には新たな生命も誕生した。由衣と名付け、倉科は、妻と由衣を一生かけて幸せにするんだと誓った。それなのに、たった1人の少女との出会いが、全てを狂わせた。