いつの間にか、倉科の腕の中で眠っていた凛音は、どことない気だるさで目が覚める。外は既に明るい。皮肉なくらいの晴天だ。
「ねえ、起きて、」
「ん…」
「もう9時過ぎてる。」
だるい体を動かして、シャワーを浴びに行く。凛音の体には痕一つついていない。それが繋がった事実を否定されたような、いつでも離れていいよと手放されたような、そんな気がして不安でたまらなくなるのだ。それを過去に倉科に伝えたことがあるが、困った顔で頭を撫でるだけだった。
 支度を終え、家に変えるために車に乗り込む。 
「デート、楽しかった?」
「うん、楽しかった。パスタも美味しかった。」
「またいくらでも連れてってやるよ。」
「私にばっかりお金使ってちゃだめだよ。奥さんとも美味しいもの食べに行って。娘さんにも可愛いお人形買ってあげて。」
「…そうだな。」
凛音の頭をそっとを撫でた。困った時の倉科の癖のようだ。
「そういえば、お前英語のテストのクラス順位、1位だったな。」
「凄いでしょ。もっと褒めてよ、倉科センセ。」
「先生、ねぇ。…まあ、俺としては倫理で1位とって欲しかったけど。」
「3位だったからいいじゃん。」
「だーめ。今度のデートは倫理の特別授業な。」
「絶対嫌。」
 昨晩の重い雰囲気が嘘のように車内には楽しい空気が流れる。あっという間に家の近くのコンビニに着いてしまった。
「着いたぞ。」
「うん。」
「…降りていいんだぞ?」
「うん。」
素直な言葉とは裏腹に、凛音の手は倉科のシャツを掴んで離さない。そんな凛音を片手で抱き寄せる。
「帰りたくない?」
そんなこと聞くまでもない。もっとずっと一緒にいたい、2人で同じ家に帰りたい。しかし、それを伝える権利は凛音には無い。
「帰らなきゃいけないもんね。また、会えるもんね。」
「ん。」
「じゃあ、またね。」
倉科は最後に凛音の額にキスをした。凛音が家の方へ歩いていくのを見届けた後、家族が待ってる家へと車を走らせるのであった。