今泉景子さん。
変わった名前の子。

クラスの女子皆がスカートを短くしているのに対して、彼女はいかにも真面目だ。
肘丈すれすれのスカート丈。
少し長めの髪の毛は緩い三つ編みをしている。
キツめの眼鏡から、少しつった目が覗いている。

典型的な優等生だなー。
「じゃ、凛堂さんの隣に座ってね。」
 田中先生は私の隣を指定した。
「凛堂聖子、挙手!」
「はいはーい、私が聖子でぇすぅ。」
 メチャクチャ調子乗っちゃったー。
「分かりました。」
 景子さんは落ち着いている。
 
 やっぱり優等生だぁ。

 クラスにいないタイプ。
なんだか、新鮮♪
休み時間。

「景子さんー。」
「え?凛堂さん。」
え?
みょ、名字にさん付け!?
ほ、ホントに優等生だぁ。
「景子さん。凛堂さんはちょっと〜。」
「あら、では、どう呼べばいいの?」
 
え?
え?
それ以外呼び方わかんないの?

「えと、聖子て呼んで。」
「あー、聖子さん。」

やっぱし。
まぁ。いーや。
「私とあなた、似ているわね。」
「?」
 聖子さんはふいに言った。(あ、わざとかもねー)
「そうかしら。」
 ちょおっと意味がわからないなー。
「だってさ、クラスで浮いてるし、私達。」
 そ、そうかしら?
 私、ビックリ。
「そうかもね。」
「え?」
「私、生憎(あいにく)派手で五月蠅い人間は嫌いでね。」
 あ、つい本音が。
「私も!」
「え?」
「私も、派手なのは嫌いよ?五月蠅いのもあんまり好きじゃない。」
「え、ホントに?」
「うん、私ね、ここに来た時―」

一体彼女はなにを話し始めようとしたのか。
「私ね、先月ここに来たの。
 それでね、私も入って来たときシーンとしてたよ。」
「?」
「それにね、私はすぐに無視されるようになってね。でも、最近は気にしてないよ。でも、たまに気づくのよ。何か、皆が企んでんじゃないかって。本当かもって、最近また思い出したのよ。最近……ね。」
 私、かなりベラベラと…………

 隣の景子さんはどうかな?
 ひいてたり、してない?

 あ、大丈夫。
 いつも通りだわ。
「最近は慣れたけど、駄目ね、私。」
「?」
「私、東北から引っ越してきたの。だから、言葉ちがってさ。」
「それって。」
 景子さんの顔が少し悲しくなってしまった。
 私の話、暗すぎ!
「景子さんもそうなるわけじゃないわよ。でも、気を付けたほうがいいわ。」
「え?」
「ここの皆は、違いを許さないからね。」
 聖子さん。ホントのこと言ってるのかな?
 私は関東だから、言葉同じだけど。
 聖子さんは、もっと辛いんじゃなくて?
 
 トボトボ歩いていると、誰かが、頭下げて謝っているのが見えた。
「!」
 
聖子さん?

 あの顔。あの姿は、聖子さん!
 え?聖子さん、何で?

「お独り様は言うこと聞いてればいいのよ!」

聖子さん?
ドキリ。

 私も、ああなっちゃうの?
 嫌よ。

「聖子さ……」
聖子さんが謝っていた子は、さっと逃げて行った。

助けて、あげられなかったよ。
私。
あの子は、私に忠告してくれたのに―