【完】俺が愛してやるよ。




「今日ぐらいは泣いてもいいよ。

今度は全部、あたしが受け取めるから」



結実は震えた声でそういうと、
俺を強くギューッと抱きしめた。

その優しい温もりに包まれた時
何かがプツンと切れたようにポロポロと涙が溢れ出てきた。



「ぐっ…うぅ…鈴…」


もうどんなに呼んだって戻ってこないのに
こんなことになるなら、もっと優しくてやればよかった。

喧嘩した時は謝ればよかった。

後悔してももう遅いのに今まで我慢していた気持ちが次々と涙となって流れ出る。


そんな俺の頭を優しく撫でてくれる結実


「妹さんは統牙がお兄ちゃんで良かったと思うよ。
だって、恨んでるなら最後に“大好き”なんて言わないもん…」


結実…

お前は誰にも愛されてないって言ってたけど、
それは間違ってる。

お前はたくさんの人から愛されてる。
じゃないと、こんなにも優しい人にはなれない。

現にお前はたくさんの人に愛されているんだから。






「なーんか、妬けちゃう。

統牙が妹さんのことそんなに想ってて。」


しばらくして、俺が泣き止むと隣で結実が口をピュッと尖せて言った。

まったく、妹の鈴にヤキモチを妬くなんて可愛いやつだな。


「鈴は家族としてだけど、お前は恋人としてだから」


鈴は大切な俺の家族。

結実は大切な俺の彼女。


「うん、ちゃんとわかってるよ。

妹さんの事絶対忘れちゃダメだよ?」


そういって、結実は俺に優しい笑顔を向ける。






やっぱり、結実は変わってる。

普通は『忘れて』とか言うもんじゃねぇの?

結実のそんなところも好きなんだけどな。


きっと、自分は家族のことで上手くいってないから
余計にそう思うんだろうな。


結実は人の気持ちを考えて理解して

それをすげぇ大事にするやつだから。



「…忘れねぇよ」


鈴はいつまでも俺の中で生き続けてる。

世界でたった一人の妹として。

結実に話したことで俺達の絆が深まったような気がした。






【結実side】



統牙の過去を聞いてさらに絆が深まったあたしたち。

それから、少し経って気がつけばあたしがここに来て二ヶ月程が経っていた。


変わったことといえば、
最近すごい総長さんがあたしに話しかけてきて
関わることが多くなった。


あたしと統牙が付き合ってることはもう朔龍の中じゃみんな知ってる事だし、

誰もあたしみたいなのには寄ってこないと思っていたのに

総長さんは一人だけ違った。

優しい顔して話したり、たまに酷いこと言ってきたり…

なんか統牙と似てるような気もするけど
やっぱり、統牙じゃないとしっくりこないっていうか……





なんというか…まあそんな状況。

今日もいつものように倉庫で朔龍のみんなと喋ったり、ゲームしたりしてる。

もちろん、どこに行くにも隣には統牙がいるけど。

最近は全然離れてくれない。
千香と二人で話したいことがあってもなかなか納得してくれない。

まあ、多分統牙があたしのそばにいなくなると総長さんがやって来るからだと思うけど。


「ねえ、統牙。なんか怒ってる?」


「別に」


そして、昨日から機嫌も悪い。
…あたしなんかしちゃったのかな?


何度尋ねても、『別に』しか言わないし。

何考えてるのか分かんないんですけど。





「おいっ!統牙!!

龍極の奴らが攻めてきたからお前も来い!!」


そんな時だった。
朔龍の敵グループが倉庫に攻めてきたのは。

こんなことは初めてで、怖くなって足が震える。

きっと、統牙は行ってしまう……
じゃあ…あたしはどこにいけばいいの?


「あー…わりぃ。

俺は結実を置いてけねぇから無理だわ」


隣にいた統牙があたしの肩を抱いて言った。


「お前、こんなときに彼女とイチャイチャしてんじゃねぇよ!」


慌てたような顔で統牙に怒鳴る。

あたしはやっぱり邪魔者なんじゃあ……
無意識に統牙の服の袖をぎゅっと掴む。





「今は俺がいなくてもお前らなら大丈夫だろ?

……俺はお前らの強さを信じてるから」


「統牙…」


統牙は怒鳴り返すどころか落ち着いた声で少し微笑んで言った。

そっか……統牙は信じてるんだ。

だから任せられるんだ。


「…ったりめぇだ!俺らでひょいひょいってぶっ倒してくるわ。」


さっきまで怒っていた彼も笑顔で去っていった。


「お前は俺から離れんなよ」


ぎゅっと統牙があたしを安心させるかのように手を握る。

やっぱり、統牙はかっこいい。

不意にそう感じた。




そして統牙にここに隠れてろ、と言われて身を潜めていると
統牙じゃない聞いたこともない男の声がした。


「お前、相島じゃねぇか」


隠れているのはあたしだけで
統牙は普通に突っ立っていたから相手にはバレバレ。


「ああ…そうだけど」


統牙は普通に答える。

怖くないのかな…?
こういうのにも慣れてるのかな?


「じゃあ、お前を殺ったら俺は上に上がれる…!」


この人は自分の地位のために人を傷つけるの?

それは間違ってるよ。
人を傷つけても全部自分に返ってくるのに。


こっそりと二人の様子をのぞき見する。

男が統牙に殴りかかる。
思わず目を閉じそうになったけど

統牙はスッと交わすとお腹に一発、
強烈なパンチを食らわせた。





つ、強い……。


喧嘩初心者のあたしでもそう思うのだから、
統牙は相当強いのだと思う。


「て、てめぇ…!!」


フラフラしながら起き上がった男と
目が合ったような気がした。

すぐに目を逸らしたけど…見つかってないよね?


「ふっ…この勝負俺の勝ちみたいだな」


男の気持ち悪い笑い声が聞こえる。

お願い……見つかっていませんように。

手を合わせて、それを額に当てて必死にお願いする。


「何言ってんだ?」


統牙はそんなことには気づいてない様子。