な、何!?


「携帯貸してー」

防御の姿勢で身構えたら、手の中からすっと携帯が奪われた。

あっと思ったときにはもう遅くて、仁織くんが勝手に携帯を弄っている。


「ありがとう」

しばらくして戻ってきたと思ったら、手の中で携帯が鳴り出した。

知らない番号からの着信だったから訝しんでいると、仁織くんが自分の携帯を弄りながらにこっと笑った。


「それ、俺の番号。登録しといて」

「え……?」

「じゃぁ、またね」

戸惑うあたしに、仁織くんが笑いながら手を振る。

はっとして周りを見ると、電車の駅はもう数メートル先だった。

任務を果たして満足したのか、校門で出会ってから最後まで振り回されっぱなしだったあたしを残して、仁織くんはひとりでさっとバス停のほうに引き返していく。

手元にあるのは、一件の不在着信が残った携帯。


あの子、本当に何なの……

濃紺の学ランの後ろ姿を茫然と見送りながら、あたしはしばらくそこから動けなかった。