「ちょっと。余計なこと言うのやめてよ。恥ずかしいじゃない」

友達を見送る仁織くんの腕をつかんで、低い声を出す。

精一杯の怒りをぶつけたつもりだったのに、振り向いた仁織くんはなぜか嬉しそうだった。


「美姫ちゃん、やっとしゃべってくれた」

キラリと目を輝かせる仁織くんを見て、うっかり声をかけてしまったことを後悔した。


「しゃべりかけたんじゃなくて、苦情だから。校門で待ち伏せされた上、付きまとわれたらかなり迷惑」

「だって美姫ちゃんが連絡先教えてくれないから」

強い口調で責めると、仁織くんがシュンと肩を落とす。

その姿は飼い主に叱られた仔犬みたいで。

迷惑を被っているのはあたしのほうなのに、こっちが苛めてるみたいな気持ちになった。


「あー、ごめんね。言い方きつかった……」

罪悪感を覚えて謝ると、仁織くんがぱっと顔をあげる。


「じゃあ、携帯教えてくれる?」

冷たくして落ち込んだのかなと思ったのに、にこっと笑いかけてきた彼は全くめげてなんかいなかった。