リビングの中は、物が散乱していてあちこちに食器が割れている。


穂月の両親が向かい合って立っていて、緊迫した空気が流れている。


「2人とも……」


恐る恐る声をかけるが、その声は怒鳴り声によってかき消されてしまった。


2人ともあたしが帰って来たことにも気が付いていない様子だ。


「やめてよ。こんな、食器が割れて危ないし……」


喧嘩の仲裁なんて今までしたことのないあたしはオロオロしながら声を絞り出す。


だけど2人にはやっぱり声が届いていない。


どうすればいいんだろう。


そう、思った時だった……。


「せめて穂月を引き取るのをやめていればよかったのよ」


そんな声が聞こえてきて、あたしの体は凍り付いた。


「今更そんな事を言っても仕方ないだろう。あの時俺たちには子供ができなくて悩んでいたんだ。穂月を見た時にこの子を育てたいと、君も賛成しただろ」


「そうよ。穂月は本当に可愛かった。だけどあたしが生んだ子じゃないわ。こんな状況になって子供がいることで生活が苦しくなっていることは事実よ」


「そんな言い方ないだろ?」


「あなたは毎日家にいてなにもしてないじゃない! 毎日パートで働いてやりくりしているのは私なのよ!」


母親の悲鳴に近い声を聞いた瞬間、あたしは弾かれるようにしてリビングを出ていた。


そのまま玄関を出て走る。