あたしの周りは案外愛で溢れていたのかもしれない。


誰の事も信じない。


みんな敵だ。


そう感じていた心が少しずつ溶けはじめているのを感じていた。


なにより夏斗の存在が大きかった。


夏斗はあたしのために土下座までしてくれていたのだ。


事故に遭ったと聞いてすぐに駆けつけてくれてもいた。


その事実がとても暖かかった。


「ちょっと、いい?」


昼休み、お弁当食べ終えたタイミングで奏が声をかけて来た。


あたしは小さく頷き、周囲を気にしながら席を立った。


今司と穂月の2人はいない。


あたしたちは教室を出て、人気のない階段へと移動した。


「ユメノ、事務所やめたんだって」


突然そう言われて、あたしは一瞬言葉に迷った。


何も知らないふりをした方がいいとわかっているのに、ユメノのような演技はできない。


「そう……なんだ?」


結局、そんな中途半端な返事になってしまった。


「ユメノは誰かをイジメる必要がなくなった」


「奏だって、そうなんだろ?」


そう聞くと、奏は頷いた。


明さんとの関係は完全に切れた。


誰からもお金を奪う必要はなくなった。