夏斗はイジメの傍観者だった。


ただ見ているだけ。


さっきみたいにひどい光景を目の当たりにしても、なにも言わずに逃げて行ってしまう。


あたしは夏斗がいなくなった場所をぼんやりと見ていた。


夏斗はここになにをしに来たのだろう？


校舎裏に用事なんて、滅多な事がないとないはずだ。


「さて、やりますか」


そう言ったのはユメノだった。


ユメノの目はキラキラと輝いている。


タバコを押し付けられたショックでその場に座り込んでしまったミカちゃんのわき腹を力いっぱい蹴る。


ミカちゃんは小さく唸り声を上げて横倒しになった。


始まった。


ユメノの暴力は容赦ない。


一度始まるとなかなか止まらないのだ。


横倒しになったミカちゃんの体をユメノは何度踏みつけた。


同じ場所を何度も何度も攻撃する。


ミカちゃんは小さくうずくまり両手で顔をガードしている。


ユメノはその両腕を踏みつけた。


ミカちゃんの腕に泥がこびりついていく。


「あ～あ、ユメノのスイッチが入っちゃったね」


穂月が楽しそうに言い、ユメノの暴力を見学している。


司も時々笑い声を上げてユメノに加勢する。


あたしはその光景に数歩後ずさりをしてしまった。


笑いながらクラスメートを踏みつけるユメノの姿は異常だとしか言えなかった。


恐ろしい。


素直にそう感じる。