「イテ。ははっ」
背中に頭突きをしても、笑われるだけ。たまにかわいい柊くんでも、なんだかんだ余裕があるのも柊くんなんだ。
「落ちるなよ」
そう言われ腰辺りのワイシャツを控えめに掴む。大きくて少し熱い背中が張った次の瞬間、ぐん、と自転車が前へと進んだ。
いつもと同じ通学路の景色が、今日はぐんぐん後ろへ流れていく。
登校時がゆるやかな坂道なら、下校時はゆるやかな下り坂。あっという間に駅についちゃうんだろうな。
このまま、何も残せずに。
「ひまりさー、土曜なんか予定あるー? なかったら遊ぼーっ」
風を切る音に交じって、柊くんのお誘いが鼓膜に届く。お誘いまでスムーズときた。
悔しいな……。置いていかないでよ。
とくとく鳴る心音に耳を澄ませていた私は、右手を柊くんの腰に回し直した。先程よりもぴったりと密着した体の半分と、頬。こくりと頷いた私のそれが、返事だった。
柊くんは私にくっつかれて、どきどきしたりするのかな。
なんて考えたあとに、私のほうがどきどきしてるんだろうなと思う。
……ファンデーション、塗ってなくてよかった。