まさかそんなバカな。ありえないでしょタイミング的におかしいでしょ! きっと顔になんかついてたんだ! おかしいな鏡は何回もチェックしたんだけど! いや理由はどうであれ、するわけがない! 


「しないよ」


ですよねー! 自意識過剰ですみません!! って……え。心の声漏れてた!?


痛いくらいの勢いで、口を手のひらで押さえる。と同時に柊くんへ目をやると、怖いくらい静かに、綺麗な笑みをたたえていた。


緊張も、動揺も見えないその微笑みは、私の呼吸を止める。


「っ、」


柊くんの手が、前髪に触れる。一度梳かれただけの行為に、私の頬はまた熱くなってしまう。


「しないよ。まだ」


男の子の表情から、誰もが知るメグの顔つきになった柊くんは「なんちゃって」と笑ってからサドルにまたがった。


……ずるい。また、そうやって、ひとり先に行く。


私、これでも頑張ったのに。ないなら振り絞れ勇気!って心して待ってたのに……。私のいいところは、素直なところらしいのに。


目の前の背中越しに「行くよー」と何事もなかったかのように声を掛けられたら、素直に柊くんへ手を伸ばせない。