ふたりと話してほぐれていた緊張が、再びやってくる。

自転車を引く柊くんは隣を歩く女の先輩と話していて、私たちにはまだ気付いていない様子。


「メ、メグの野郎……!」


悔しそうにふっくんが呟いたということは、あの先輩こそ、ふっくんの告白を断ったばかりのバスケ部マネージャーだろう。


薄暗くてよくは見えないけれど、肩下まである茶髪をハーフアップにしている。あの髪型には見覚えがある。2年生で、たぶん、男バスマネジの中でいちばん人気のある、かわいい人。


そんな人と並んでも違和感ないのが、柊くんだよなあ……。


「おつかれー。まだ帰ってなかったんだ」


気付いた先輩が主に小鷹くんへ向けて言う。柊くんは私を見つけ目を丸くさせたから、とっさにうつむいてしまった。


「もう帰るところですよ。電車来るまでまだ時間あったんで。じゃあなメグ」

「え? あ、おう。わりぃ、ありがとなっ」

「なぜ俺を置いていく!? メグてめぇ覚えてろよっ!」


「はあ?」と柊くんが訝しむのもお構いなしに、ふっくんはさっさと歩き出した小鷹くんを追いかける。


「待って! あたしもっ……や、えっと、」


勢いよく振り返ったふっくんの期待にまみれた表情にギクリとした先輩は、きょろきょろと視線を泳がせ、


「じゃ、じゃあ、あたしも先に帰るね。おつかれ!」

「おつかれっす」


と、私にもぺこりと会釈してから、慌ただしく「混ぜてー」とふたりの背中に駆け寄っていった。