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午後2時。

飛行機が発つまで、あと1時間弱。

カイはどうやら、見送りには行かないらしい。

行けばいいのにと思う反面、カイの気持ちが分からないでもなかった。

やっぱりまだ、カイはお兄さんのことが好きなんだろうな。

だからこそ、行くのがつらいんだと思う。

だから、行けないんだと思う。


そんなことを考えていると、不意にドアチャイムが鳴った。

玄関のドアを開けてみると、宅配のお兄さんがいつものビジネススマイルで立っていた。

その手には、大きくて平たい箱が抱えられていた。

あたしは印鑑を押して、それを受け取る。

ちょっと重い。

リビングに戻って、あたしは早速包みを開く。

宛名はあたしの名前になっていたから、大丈夫だろう。


「・・・スケッチブック?」


中に入っていたのは、一冊のスケッチブックだった。

誰が、何の目的で、これを?

不思議に思いながらも、あたしはそれを開いてみた。

1ページ目、白紙。

2ページ目、3ページ目と繰っていき、4ページ目でようやく白紙が途絶える。


『小松結衣さんへ。

 突然で申し訳ありませんでした。
 でも、どうしても貴女にしか託せなくて。
 これはカイに渡してください。
 いつでもいいです。でも、できれば早く。
 渡さないなら、それはそれでいいですが。
 よろしくお願いします。     望月悠』


カイのお兄さんからだった。


あたしはまた、ページを繰った。

その瞬間、はっと息を呑む。

気付けば、手には携帯を握りしめていた。


午後2時20分。

空港は、ここからそう遠くない。

今なら、まだ間に合うかもしれない。

そう思いながら、カイの電話番号を押した。


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