「ただいまー」

「おかえり、カイ。遅かったね」

「うん、ちょっとね」


予定より帰りの遅かった私を、お兄ちゃんはとても心配していた。

そういえば今日は、お兄ちゃんも大学の入学式だとか言ってたっけ。

お兄ちゃんは、佐久間さんと同じ大学に進学した。


ふと顔を上げると、お兄ちゃんと目が合った。

しばらく視線を逸らせなくて、なぜだかすごくドキドキしていた。

やっぱり、好きって苦しい。

苦しくて、途端に涙が溢れそうになる。

泣いているのをお兄ちゃんに気付かれたくなくて、私は咄嗟に俯いた。

それから、そのまま2階へと駆け上がった。

お兄ちゃんが「カイ」と呼ぶ。

それだけで、私は苦しくてたまらなかった。