不意に、背後から誰かに名前を呼ばれた。

誰か、ではない。結衣だ。

私は思わず振り返った。

そこにはやはり、結衣の姿があった。

彼女は目の周りを赤く腫らしていた。

泣いていたのだろうか。


「カイ、ごめんね」

「結衣・・・」

「ちょっと、話そっか」

「うん」


私が頷くと、結衣は力なく笑った。

そんな彼女の笑顔を見るのはつらかった。

「あたしにはもう、時間がないの」。

そう言った結衣の姿が脳裏に蘇る。

あれは、どういう意味だったのか。

今なら、少しだけ分かるような気がする。


結衣・・・。

私は、結衣をそっと見上げる。

そして「ごめんね」と、心の中で呟く。

他に何と言えばいいのか、私には分からなかった。