――・・・ごめん。


お兄ちゃんがそう言うと、結衣はお兄ちゃんにお礼を言って、そのまま帰ってしまった。

今は、私とは話したくなかったのだろう。


「・・・カイ。もう降りてこいよ」


どうやらお兄ちゃんには、私がここにいることはばれていたらしかった。


お兄ちゃんは今、何を考えているんだろう。

私のこと、どう思っているんだろう。

私にはお兄ちゃんのことが、何にも分からなかった。

お兄ちゃんが急に知らない人になったみたいで、私はそれが怖くて、不安だった。


「・・・カイ?」


お兄ちゃんが、私を呼ぶ。

もう返事なんてしたくなかった。

私がずっと黙っていると、お兄ちゃんは階段を昇ってきた。

やだ、やめて。来ないで。

今はお兄ちゃんの顔、見たくない。


壊れる。


咄嗟に、そう思った。

これ以上お兄ちゃん近づいたら、私の中で崩れ落ちそうになっている何かが、壊れてしまう。

そう思った。

だけど、そんなことをお兄ちゃんが知る由もなく。


お兄ちゃんはただひたすらに優しく、私の名前を呼んだ。


「カイ」