「・・・あれ、カイちゃん?」
家のそばの商店街で、不意に声をかけられた。
振り向くと、そこには知り合いのおばさんが立っていた。
彼女の名前は桐島妙子(キリシマ タエコ)といい、お母さんの高校時代からの親友だった。
その縁もあって、彼女とは家族ぐるみの付き合いがある。
「久しぶりねえ」
「お久しぶりです」
「そういえば今日、悠くんの卒業式だったんだって?」
「はい、さっき終わったところです」
「悠くん、もう大学生になるのねえ」
「・・・はい」
「あ、ごめんね。引き止めちゃって」
大丈夫ですよ、と返して、私は妙子おばさんと別れた。
彼女を見るとどうしても、お兄ちゃんのことを思い出してしまう。
悠くんは――妙子おばさんは、いつもそう言っていた。