気のせいなんかじゃない。

確かに、そこにはお兄ちゃんが立っていた。

時計を見てみると、フライト予定時刻の午後2時54分は、とっくに過ぎてしまっていた。

それなのに、どうして。


「お兄ちゃん、何で・・・」

「やっぱり、来てくれると思ってた」

「もう会えないかと思った」

「ごめんな、カイ。俺、嘘ついたんだ」

「え、じゃあ留学は――」

「それは本当。でも、出発は来週なんだ」


お兄ちゃんは少し申し訳なさそうに笑いながら、そう言った。

どうしてそんな嘘をついたんだろう。変なの。

だけど、良かった。

もしこれが嘘じゃなかったら、見送りはできていないはずだったから。


「じゃあ来週は、絶対に見送りに—―」

「だめ」

「え、何で?」

「カイには、一緒に飛行機に乗ってもらうから?」

「え??どういうこと?」


意味が分からなかった。

一緒に飛行機に乗ってもらう?

何、それ。

私が混乱しているのを余所に、お兄ちゃんは答えた。


—―俺と一緒に、フランスに来て。