共働きの両親は、どうやらまだ帰宅していないらしかった。

家の中には今、僕ひとりだ。

この時間が永遠に続けばいいのに、などという祈りにも似た淡い期待は、間もなく見事に打ち砕かれる。

こうして僕の人生には、いつも通りの日常が流れてゆく。

たった一つ、彼女の事だけを除いて。

しかしそれも、彼女と知り合う以前に戻っただけだと考えてしまえば良い。

なんて薄情な、と思う人は少なくないだろう。

でも僕はこうする他に平常心を保つ術を知らないのだから、許してほしい。


どうにか気を紛らわそうと、何気なく携帯電話に手を伸ばす。

誰に連絡を取ろうというわけではなかった。

ただ、何となく、以前の彼女に触れたくなった。

・・・などと言えば、きっと今の彼女なら軽快に笑い飛ばしてくれるのだろう。

そんな事を考えながら、僕は彼女とのメッセージ履歴を呼び出す。

そこでようやく、自分が書きかけで未送信のままにしていたメッセージがあったことに気付いた。


『僕は君を』


僕はこの時、彼女に何を伝えようとしていたのだろう。

どんなに考えてみても、答えは出なかった。

ただ、もし仮に僕が今の彼女に送るとしたなら、こう続けるだろう。


『僕は君を殺したい』