すると‥千明くんが私を抱きしめてくれた。

「千明‥くん?」

千明くんのにおいがした。

「大丈夫だよ花音。花音は1人なんかじゃない。俺がいる。」

「うん‥うん。」

自然と震えは止まって落ち着いてきた。


「あのさ花音。ずっと花音に隠していた気持ちがあるんだ。」

千明くんが私を抱きしめたまま言った。

「俺‥本当は‥留学なんてしてほしくなかった‥。」

「えっ!?」

びっくりして千明くんの顔を見ようとした。だけど出来なかった。

千明くんがさせてくれなかった。

「‥話を聞いて。そう思ってたけど‥花音の夢を応援したかったんだ。‥俺に留学を引き留める権利もないし、何より花音の気持ちを大切にしたかったんだ。花音には夢を叶えてほしいから。」

千明くんの隠された想いを私は初めて知った。

ここで、千明くんは私をはなした。

「‥だから‥大きな決断をした花音のことを俺は本当に尊敬してる。だから、俺も決めたんだ。」

何を?‥と聞く前に千明くんは、いつもつけている眼鏡を外した。


「もう‥眼鏡には頼らないことにした。花音が1歩踏み出したように俺も1歩ふみだしてみようと思う。」


「‥‥‥ッ‥‥」

千明くんにとってこの大きすぎる1歩を私には少し‥つらかった‥


すると‥千明くんが私の目から溢れだす涙を親指でふきとった。


「‥自分のせい、だなんて思うなよ。これは‥花音のせいなんかじゃない。俺が決めたことだから。‥ずっと逃げてた。だけど‥花音を見て、逃げてたらダメだて思えた。‥だから俺はもう逃げないから。」


「千明くん‥。」



千明くんの決意のあらわれだった。



「花音ー!そろそろ時間よ!」

その時、お母さんが呼びに来てくれた。


「時間だね。今日はありがとうね。」

そう言って千明くんに背を向けた。


「なぁ花音。」

その声と同時に振り向くと‥


千明くんが優しく私にキスをした。


一瞬だけ時間が止まった気がした。