「それで、眼鏡かけてたんだ。」

「似合うだろう?」

笹川くんがいたずらぽく言った。

そんな様子に私も自然と笑みがこぼれた。

「‥低学年にあった出来事から俺は人の心を読まない。使わない。‥て決めたんだ。‥でも聞こえてくるものは聞こえてくるんだ。それがあの時、橋村とぶつかったとき。」

ホームルーム前、笹川くんとぶつかったことを思い出す。

「あの時、友達としゃべってたんだけど悪口とかそういう嫌な声が聞こえてきて本当に気分が悪くなったんだ。今、思い出しても気持ち悪くなる。」

私は話を聞いてすべて納得していた。

「そうだったんだ‥。」

「俺、テレビでやっている音楽番組もバラエティーでも聞こえてくることがあるから見れないんだ。演奏している人とか‥早く終わらないかな。て思ってる人もいるから気分が悪いよ。」

そう言う笹川くんの顔は本当に苦しそうだった。

「でも‥一人、例外がいたんだ。‥それが
橋村花音。君だよ。」

笹川くんは真っ直ぐな目で私を見てきた。

「えっ!?ど‥どういうこと?」

ドキッ 不覚にも私の心臓は高鳴ってしまった。

「‥実は俺、入学した次の日から橋村がピアノをひいていたのを知ってたんだ。同じクラスなのも知ってたし、名前も‥まぁ知ってたんだ。」

笹川くんが恥ずかしそうに言う。

「その頃の俺は新しい環境で、ちょっと不安定だったんだ。いろんな声は聞こえてくるしで少しまいってた。そんなときに橋村のピアノが聞こえてきた。その音は本当にまっすぐで純粋だったよ。それに、すごく楽しんでいるのがわかったし音楽を愛してるんだとわかったよ。」

私の顔は恥ずかしさで真っ赤になるのがわかった。

「俺を助けてくれてありがとな、橋村。」

「いやいや。私は何もしてないよ!」

私は顔の前で手がちぎれるぐらいふった。

「そんなことない。クラスで会う橋村からは何も聞こえてかなかったんだ。悪口も聞こえなかった。橋村は純粋で優しいなてずっと思ってた。だから俺、あの時わざとリコーダーを忘れて音楽室に行ったんだ。教室だと話しにくいかなと思って。」

あれは笹川くんなりの配慮だったんだ。笹川くんの考えがおかしくなって私は笑いかけたがこらえた。

「フッ‥。‥‥。」

だけど私はこらえきれず少し笑ってしまった。

「ごめん橋村。ちゃんと話しておきたいなと思って。黙ってたわけじゃないんだけど、橋村に言わないのは悪いなと思ったんだ。‥何か隠してるて思ってたよね?」

「うん。ちょっと思ってた。でも笹川くんが話したくなかったらいっかとも思ってたんだ。‥笹川くん、話してくれてありがとうね。」

私は素直に言えた。

つらいことを言ってくれた笹川くんはすごいね。

「さっきも言ったけど、私は笹川くんのこと嫌いになんかならないよ。‥私は笹川くんにだったら心、読まれてもいいて思ってるよ。」

「えっ!?」

今度は顔を真っ赤にさせたのは笹川くんだった。

「笹川くんは気持ちをもて遊ぶ人じゃないて思えるから。だから私は別に笹川くんに読まれても傷ついたりはしないよ。」

そこまで私が言った時だった。