「それじゃあ、また」




出入り口の一歩手前で、そう言って先輩に軽く会釈をする。



すると本を持っていない方の手をあげてくれた_______。











先輩はそのあと貸出のカウンターに行ってしまったので、私もその場を後にする。






また本は借りないで、ページ数だけをメモってきた。



借りないの。と聞かれたけど、貸出期間を忘れそうだから本音を言っておいた。











生徒玄関までの廊下を歩きながら、もう一度記憶を辿る。




丁寧な言葉遣いは印象に残る、話し方も人によって微妙に異なる。












なんなら、顔立ちも記憶に一番根付きやすいのに。




通りすがりなら、大きなインパクトがなければいちいち覚えていない。




(......ただの思い違いだといいな)











靴を履き換えて、ハイカット部分をつまみ引っ張り上げる。




歩みを進める足は、かたいタイルを踏みしめ外を目指す。










外気にふれて、ゆるやかな風に髪が揺れる。





想像していたよりも眩しい光に、目を細め無意識に顔を伏せる。



止まった足を動かし、ただ歩く。











日を追うごとに気温の変化で目と鼻の先に迫る、季節の移り変わりを感じさせる。


日照も長くなってきていて、こんな時間でも明るい。





心地よい温かさから、はっきりとした暑さへと着実に変わってきている。









すべてが時間をかけて、変わり始めていた。