「更科さんか。うん、よろしくね」
何だか考え込むような、一度だけ表情が歪んだ気がした。
そう多くない名前に驚いたとか、そういう類ではなさそうだけど。
馴れ馴れしくし過ぎるのも変だから、見なかった振りをした。
「凄く面白いです、この本。
先輩に教えてもらえて良かったです」
自分ひとりではきっと見向きも...いや、探すことすら諦めていたかもしれない。
そう思うと、話しかけてくれたり本当に親切にしてくれた。
(声をかけてくれたっていうか、不審に思っただけかもしれないけど)
「それは良かった、そのジャンルはあんまり読まないから。
なんとなく手に取って読んでみて、面白いと思ったんだよね」
にこやかに言う先輩は「楽しんでもらえてるなら良かったかな」といっていて。
さっきの様子は、もう気にならなくなっていた。
「逢坂先輩は、どんなジャンルを読む事が多いんですか?」
話してるうちに、違うテーストの本を読む事が多いのだと知った。
どうせなら、会話が弾んでいる今のほうが聞きやすいと思って勢いで質問する。
スッと上に目線を上げてから、すぐに手元へと向くその瞳。
その視線を追うように先輩を見ると、
本を右手に持ち題名を上にテーブルに置いた。
「現実に起きた...軌跡...?
ノンフィクションの本でしょうか」
「うん、今日はたまたまだけどね。
例えばこれとか、目についたのとかが多いかな」
視野に入った本の帯を読み上げ、考えついた事を口に出す。
先輩は頷きながら、そう言葉を続けた。
それとかは置いてるところに人が結構いるからね。
と、人差し指で私の読んでいた本を指差し
た。
追いかけるように、先程まで読んでいたそれに目線を下げる。