「昨日もちゃんと言ってくれたよ?
それに、お礼を言われる程の大した事してないから」
図々しい振る舞いをしてしまったから、それも込めているのだけど。
わざわざ言う事も無いかと、黙っておく。
「とりあえず先輩、座りませんか?」
完全に座る間を逃しただろう先輩に、提案してみる。
話すにしても立たせたままは良くないし、と言うか私が話しにくい。
「そうだね。
それじゃあ隣、失礼します」
ひと席分開けて、遠慮がちに先輩は左隣に座った。
どうぞ、と言ってみたものの。
(何を話したらいいんだろう)
「あのさ、名前聞いてもいいかな?
僕は逢坂 希李(オウサカ キリ)」
「ええ、もちろん。
更科 和です、よろしくお願いします」
逢坂先輩か...。
(やっぱり気のせいかな、名前を聞いてもぴんとこない)
昨日の放課後、図書館で"初めて"話した筈なのに。
いくら考えても思い出せないのに、顔を合わせた事があるような拭えない違和感。
顔を合わせた事があるとすれば校内だという事は、確実に言えることだけど。
だとしたら、何故こんなにむず痒く思うのか。
考え出したら止まらないけど、その程度で思い出せるなら困らない。
それなら、覚えている筈だ。
本人に確認するのが一番手っ取り早く、スッキリできるけど。
ただの思い違いだったら、それこそ失礼な気がする。