「でも本格的にやっている人もいるんでしょう?
刺繍とか飾り付けみたいなの」
授業は作って完成させて評価、が目的であって余った時間でしか飾り付けなかった。
そのぶん部活では、作品に時間もかけられるからデザインも凝ったものにするらしい。
一度作ったものだから、手順は省いて機能性を良くするのに時間をかける。
そんな感じじゃないのかな。
「いないことはないけど、上手すぎて声かけられない。
熱中してて邪魔しない方がいい気がして、教えてもらい難い」
(それじゃあ、部活の意味がないんじゃ...)
佳織の部活の事情はよくわからないけど、
なんだか楽しそう。
話を聞いているとそう思う。
「はい、出来た。
これでいいかな、喋ってたから時間かかった」
「うん、ありがとう。
すごく嬉しい、またやってね!」
話しながらもヘアアレンジをしてくれていて。
佳織はそう言いながら、ポケットに収まる手のひらサイズの手鏡を手渡してくれる。
今日の結び方はよくわからないけど、簡単とか言いながら手が込んでいる。
流石だなって思ったけど、毎回毎回悪いなとも思う。
「いいけど、自分でも少しくらい練習しなよ?」
いつまでもやってあげられる訳じゃないし。
そう付け足した。
確かにそうなんだけど、言われてみるとやっぱり出来ないとなって実感する。
そして、寂しくもなる。
「うん、ついでに今度教えてね?」
そう切り返せば笑顔を見せ、頷きながら自席へと戻っていく。
すると予鈴が鳴り、音に少し遅れて担任が入ってくる。
黒板のらへんを見つめる。
意味はないけど、ぼーっとするためだ。
教壇から聞こえる張りのある声。
興味のない連絡ばかりで、耳を傾けるけど気づくと別の事を考えてしまう。
この"もやもや"とした感情は何なのだろうと。
悩みなんかない。気がかりもない。
無い筈なのに、違和感を覚える。
言葉にならない曖昧な感情。
何か悪い事をしているのに、声に出せないみたいで。
自分でも、この気持ちがわからなくなってしまった。