部屋に戻ると、女性が待ちくたびれたような顔をしていた。


「そういえばまだ名を聞いていないな。名はなんどす?」




名前……………。



私の名前は紬だけど…

私が乗り移ってしまったこの人の名前は知らない。




手がかりがないか着物を手探ってみたら、懐に紙みたいなものがあるのに気づいた。




相手に見られないように取り出し、確認してみると「梅」みたいな字が書いてあった。

他にも色々書いてあったけど、かろうじて読めるのが梅だけだった。



「うめ、です」


咄嗟に名乗った名前。

本来の名前ではないことはわかってるけど、名前を言えなかったらなおさら怪しまれそうだ。





「ほう、うめ…か。私は『ねね』と申します。おねねと呼んでくださいな」



ねね、さんか…。




「それで、お梅は今夜の寝床があるのかい?」


寝床……あるはずがない。


「ない、です…」


「本当、そんな自由奔放な旅をしてるから倒れたりするんどす。仕方ないから、今夜はうちに泊まりなさい。」



「はい、ありがとうございます…」