それが迂闊だった。
俺はもっと、周りを見るべきだった。
目の前に明らかにおかしいスピードでこちらに向かってくるトラックが見えた。
そのトラックは道路から逸れてこちらに向かっている。
・・・嘘だろ、神様。
俺はとっさに彼女を守った。
彼女も事の重大さに気が付いたらしく、肩が小刻みに震えていた。
安心しろよ。俺が守ってやるから。
俺はお前の、ヒーローだから。
庇うだけじゃない。少し右にずれれば、正面衝突は防げる。
確実に重傷を負うリスクも減る。
俺は彼女とともに右に、ずれた。
助かった。そう思った時だった。
「・・・・・さようなら」
紬の声でもない気持ち悪いくらいに低い女の声がした。
その瞬間に、俺らはそいつに押された。
ほんの、一瞬の出来事だった。
体に今までにないくらいの激痛が走り、俺らは宙に浮いた。
俺は手の感覚だけで紬をそばに寄せた。
その途端に地面に強く打たれ、とうとう体の痛みが麻痺する。
手にわずかな感触を感じ、朦朧とした中目を開けるとべっとりと血がついていた。
後ろには・・・紬がいるのに・・・。
もう、振り向く気力さえねえ・・・。
俺、死んでしまうのか・・・?
向こうに目をやると、ぼんやりとだが人影みたいなものが見えた。
その人影は、笑いながらこっちを見ていた。
「おま・・・え・・」
お前のせいで・・・。
明日の試合どうすんだよ・・・。
黎が、みんなが、俺のせいで・・。
明日の試合こそが、俺がヒーローになれるかもしれないチャンスだったのに・・・。
紬はどうすんだよ・・・。
俺はまだあいつから、告白の返事をもらってねーんだよ・・・。
みんな・・・・本当に、ごめんな・・。