何が、起きたの……?


私の名前を呼んだのは、魁……?


どうして今……魁が私の目の前にいるの?




「――う……っ」



ドスッという鈍い音が、確かに聞こえた。


私のすぐ前には魁がいて、重なるようにその男もいる。



前かがみになっている魁。


男が離れると、その手は真っ赤に染まっていた。


そして、魁の血で染まったナイフが握りしめてある。




「魁‼」



私が体を支えようとすると、魁はその手を振り払った。


お腹を刺されたのに、魁は真っ直ぐに背筋を伸ばしたんだ。




「言ったよな……?こいつに手ぇだしたらまじで殺すって……」



魁の後ろ姿しか見えなかったけど、男が震えながら後退りしている所を見ると、相当恐怖を感じているようだ。


男に一歩一歩歩み寄ると、胸倉を掴み上げた。



「や、止めろよ……‼離せ!」



弱々しく抵抗する男だったけど、魁の手はピクリとも動かない。



「魁……っ」



我を失っているのか、呼んでも何も反応を示さない。


恐怖を感じて、近寄れなかった。



「許さねぇよ。お前も」



拳を振り上げて、男の体は吹き飛んだ。


仰向けになった男は、必死に痛みに耐えているように見える。



「あ……あ……」



その光景を見ていた明菜の体は、ブルブルと震えている。



「明、菜っ、てめぇ……何とかしろよ……っ」



体を引きずりながら明菜に近寄ろうとする男に、明菜は慌てて腰を上げた。



「知らない……っ、私には関係ない……っ、私は何も悪くない……っ」



身の危険を感じたのか、明菜は1人逃げていく。


けれど、何も言わない魁。


男もついに力つきたのか、動かなくなった。




私にもそんなことどうだっていい。


とにかく魁の体が――……




「片桐……」



建物の中が静かになり、背を向けたまま魁は呟く。


ほんの少しだけ振り向いた魁は、優しく微笑んでいた。








「ゴメンな――……」





――その瞬間、魁の体がガクッと地面に崩れ落ちた。