「まさかほんとに恋煩い? ってまさかなあ、あの隼人が」
笑い交じりにそういった侑介に、俺は一拍おいてから「いや」と口を開いた。
「そうかもしんない」
「…………え?」
「なんて?」と侑介は目を見開きながらもう一度たずねてくる。
「恋煩いかもしんねーなって」
「…………えぇ??」
もう一度発せられた奴の声音があまりに素っ頓狂だったので、眉をひそめて口を開こうとしたとき
視界にあいつが映りこんだ。
こんなに人が溢れかえってんのに、あいつのことだけはなぜか一瞬でわかる。
今日はなんか嬉しそうだな。
手に持っている紙袋を覗き込んでは、幸せそうにニヤけている。
あまり無防備にそんな顔をしてるから、ちょっと胸がざわついたけど
ずっと見てるとそんなくだらない感情より、こっちにまで笑顔が移る。
「え…えぇ~?」
となりで侑介が、俺の視線の先と、俺の顔を交互に見る。
信じられない、嘘だろ、マジかよ、あの隼人が?と、口の中でぼそぼそ何回もつぶやいているのが丸聞こえだ。