顔を離す直前に、細い指で私の口の端をぬぐった。
私は身体が硬直して残りの大福を落としそうになってしまう。
「いじわる、ね。麻由がそう思うなら、そうなんじゃねーの」
こ、この人は一体どこまで本気でやってるんだろう
私の心臓はあとすこしで爆発しそうだ。
「い、意地悪ですよ。いきなりだし…!」
やることのハードルが高すぎるんだから。
もはやこれ以上赤くなることはないほどに真っ赤になってしまった顔を、私は手で冷やしながら隼人くんを見上げた。
「へえ…だけどそんなこと、麻由にしか言われたことねーから」
私は目を見開いた。
その言葉の裏の意味を感じ取ってしまい、今度こそ大福を落としそうになる。
「行くぞ」
彼の優しいリードにも、もう今日はなされるがまま。
とにかく、今は
布団に入って頭を冷やしたい…。
私はあまっくどい口の中に、大福の最後のひとかけらを放り込んだ。