「今からだと時間が…」


「時間なんていくらでもあんだろ、なにせもうバイト帰りだけしか会えない理由もなくなったし」


それは、一体どういう…


そこで私も気づく。



そっか、もうお互いの気持ちを伺いながら会おうとしなくてもいいんだ。


もう恋人になれたんだから




私と同じことを考えていたように、隼人くんは少し微笑んだ。



「な?」


「うん」


私はつられて笑って頷いた。


「じゃあ家に来るのも文句なし」


「あ、待ってっ!それとこれとは話がちがっ…」



私の言葉を最後まで聞かずに、隼人くんは立ち上がって私を見下ろした。


差し出された手と、私を見下ろす彼を見比べて、もう私に拒否権がないことを悟る。


「…すこしだけなら…」


「どうせなら泊まらせてやろうか」



さすがに私はぼんっと顔に熱が溜まった。


「―――っやっぱりいじわるでSだ、隼人くんは!」


「はは、怒んなよ、慣れろ」


「慣れないってば!」



差し出された手を掴んで隣に立つと、つないだ手をきゅっと握り返してくれた。


隣を見ると、意地悪そうな微笑み。


でも次にはふわっと一瞬の優しい笑みが滲んだ。



ずるいよなあ、私が言い返せなくなる笑顔だ。


この笑顔で私はどれだけ翻弄されちゃうんだろう。


でもその優しさに救われ、笑顔を見れることで私ももっとこの人が好きになってしまう。



何度も通った繁華街は、初めて会った時と変わらず、華やかできれいでにぎやかで


ここを二人で歩けることが、奇跡みたいだと私は感じながら


隣をあるく隼人くんに少し近づいて、小さく手を握り返した。







●おわり●