「うれしい…」
「麻由、泣いてんの?」
隼人くんの角ばった手が、柔らかな手つきで私の顔を上げさせる。
目が合って、私の目元に溜まる涙を見て隼人くんは困ったように眉を下げた。
「嬉しいのに、泣くなよ」
「嬉しいから泣いちゃうんだよ…」
「はぁ……嬉し涙でも、お前に泣かれるとどうしていいかわかんなくなる」
言葉通り隼人くんは、あまり身振りにはでてないものの少なからず動揺してるみたいに見えた。
迷った末なのか、控えめに私の目元を親指で拭ってくれる。
何度か頬を撫でるのと同じしぐさで目元をくすぐられ、それが気持ちよくて目を閉じた。
「あ、おい」
「?」
声に返事をする前に、閉じた拍子に溜まっていた涙が頬に滑り落ちた。
冷たいしずくがほっぺたを伝って下に落ちていく。
目を開けると、呆れたような顔の隼人くんと目が合った。
「せっかくこぼれねえように拭ってたのに」
「ご、ごめんなさい。でも気持ちよくって」
「頬撫でられてんのが?」
「うん」
「猫みたいだな」
それはゆっこにも言われたことがあった気がする。
自分では全然そんな気がしないんだけど…
あいまいに同意して私は首をこてんと傾けた。
「そういう仕草も、なんかのんびりしてて猫だよな」
「うーん、そうなのかな」
「俺の飼ってる猫に似てる」
「えっ、隼人くん猫飼ってるの!?」
それは初耳だ。あんまり動物を飼う印象がなかったし。
むしろ虎すらも隼人くんの気迫で手なずけてしまいそうな感じするし。
隼人くん宅の猫を想像してぼけっとしていると、隼人くんがふいに言った。