「あ、麻由ちゃん。もう上がっていいよ!こんな時間まで残業させちゃって悪かったわねぇ」
事務室で集計をしていた増田さんが、ひょっこり顔を出して言った。
「いえ、これくらい平気です」
「助かっちゃうわー。あ、そうだ。ちょっと待ってて」
思い出したように増田さんが奥に引っ込んだあと、しばらくして手に小さい小包みを持ってやってきた。
「はいこれ。ワッフル。売れ残っちゃったから、麻由ちゃんにあげるね」
「うわっ、いいんですか!」
渡された商品『黒蜜ワッフル』に、今日仕事頑張って良かった、と心から思った。
「じゃあ、夜道気をつけてね。ここ街灯少ないから」
「はい、ありがとうございます。失礼します」
増田さんに頭を下げたあと、私は厨房にいる他の従業員さんにも挨拶をして、更衣室で着替えを済ませバイト先を後にした。
店から出ると、あたりはもうすっかり真っ暗だった。
帰り道の小さな路地は人気がなく寂しげな雰囲気が広がっている。
固まった筋肉をほぐすように、ぐるっとひとつ肩を回して息をついた。