冬紀くんが来なくなって戻った色が亡くなって行った。
会いたい、そう思った
色が完全に亡くなる前に、褪せる前に。
色だけじゃない、この想いが朽ちてしまう前に
この感覚は知ってる
私は一度空っぽになった
画を教えてくれてたおばあちゃんが亡くなってから絵が描けなくなった
描いても描いても、描いても薄い平たい絵の具が掠れてキャンバスに乗って
全く出なくなったんだ。
それが怖い、だけどそれよりも
この感情を無くしてまた独りになりたくないんだ、まだまだ冬紀くんと一緒にいたい。
一緒にいたら絶対色付く、色が戻ってくる
この想いも濃く色も濃く強くなれる。
冬紀くんが好き。
気が付いたら冬紀くんの学校に来ていた
灰色の学校に赤のペンキが浮いて見えてどうしようもなく怖い
すると校舎裏から声がした
見てみると人が一杯倒れていて男の人たちが返り血で身を染めた冬紀くんを囲んでいた
冬紀くんは何故か微動だにしなくて真っ青な顔で男達を睨みつけ静かに立っていた
それは画にかけないほどの痛みがあって赤をどんなに使っても描けないだろう地獄絵図だった。
「女と一緒にいて丸くなってんじゃねーよ、あぁ?」
「そういえばお前の女えれェ別嬪だったじゃねーか、一度拝みてえもんだなあ、」
そう男達が言うと冬紀くんは急に独りの男に頭を下げた。
「アカリだけは手ェ出さないでください。」
偉く殺気を帯びて言うから驚いた、私の事を気にかけてくれていたなんて
それよりも助けを呼ばなきゃと思い私が後退りすると足が砂を蹴りざりりと嫌な音を立てた
その音に気付いたのか不良達がこっち側に向いた
その時男達の隙を見た冬紀くんはあっという間に男を投げ、蹴り飛ばし殴り瞬間的に圧倒した
「なにしてんだよ、逃げるぞ。」
冬紀くんが私の腕を掴んで走った、だけど私の足が思った以上に遅くて後ろからおってくる人たちがあまりに早かったから途中から冬紀くんが私を抱えて走って走って、走って
とっくに追手なんか見えないけど、嬉しそうに笑う冬紀くんを見て私もなんだか嬉しくなって笑った。
「なんで来たの?」
「会いたくなった」
「そうなんだ、」
「うん」
「好きだよ」
「私もす、好き。」
「言うね、
この間会ったばかりじゃん」
「冬紀くんが、好きにさせるから悪い」
「結婚しよっか」
「いいよ」
「…高校出てからね」
「無論。」
それから話して話して亡くしかけてた色を取り戻して明るい色が付いて色褪せてた思い出がパッと明るくなった
面倒くさい兄に紹介するのは気が滅入るけど今が色鮮やかならそれでいいや
二年の夏休みの話。