真顔の石川くんと口を開けっぱなしの私の見つめ合い。だけどよく考えたら場を和ませるための嘘かも!!!和むかどうかは別にして。
「い、いやだなぁ。面白い冗談だね!!」
「冗談?ほんとのことだよ。」
そんな予想はあっさりと遠くの山へ飛ばされた。
「どうして!?家庭教師の先生とは付き合わなかったの?」
私のそんな言葉に彼は左手の薬指を指差す。
「ペアリングしてたからね。」
「まじですか…」
「大学生が中学生に本気にならないでしょ。まぁでも、その先生のおかげで素敵な遊びに出会えたし、いいんだけどね。」
確かに…その先生とやらがいなければいまの石川くんは無かったのかもしれない。いやあったかもしれないけどさ。
「恋は?恋はしたことないの?胸が苦しくなったりとか…」
そう言った後の彼のキョトンとしたような顔に、なんとなく答えはわかったけどとりあえず待った。
だけど
「恋って…なんだろうね。」
案の定、石川くんの口からはちんぷんかんぷんな答え。
「わ、わからない?」
「……全くわからないかなぁ」
これは重症だ。
恋をしたこともないのにテクニシャンだなんて
そのうち私達の席にケーキが運ばれてきて、なんとも言えない空気のままこの話は終わってしまった。
「食べようか」
「う、うん!」
色んな人と関係があるのに恋がわからないなんて、切ないと思うのは私だけかな。
「……うん。甘すぎなくておいしいね」
「でしょ!?絶品でしょ!」
しんみりしていたはずなのに石川くんが嬉しそうな顔をしたことで、切ない気持ちはケーキによってかき消される。
「いただきます。んっ…タルトも美味しいよぉ」
頬に手を添えてうっとりしながらそう言うと、彼はクスクス笑っていた。
「幸せそうだね」
「とっても。」
フォークが止まらない。いやいやダメダメ、早く食べ過ぎたらもったいない。一回落ち着け私の食欲。
そう言い聞かせてフォークを置き石川くんの方を見ると、優雅にコーヒーを飲んでいる。
そして目の前には少しだけ食べられた輝くチーズケーキ
「あー…チーズケーキも流石と言わんばかりの輝き!!買って帰ろうかなぁ」
ポツリとそう呟くと彼は
「食べる?」
と聞いてくれた。
「え、う、うそ!いいの?」
「いいよ。こっちまで幸せになれそうだしね」
「神様仏様石川様ー!!嬉しい!じゃあ遠慮なく、あーん」
口を開けると石川くんが少しだけ固まる。だけどすぐにフォークでチーズケーキをとり、食べさせてくれる。
「美味しいー!こんな美味しいものを師匠が食べさせてくれるなんて、私もう今日命日だ!!」
タルトとは違う甘味が口いっぱいに広がって、幸せな気持ちでいっぱいだよ。あ、そうだ…
「私だけ楽しむなんていけないよね!石川くんもどうぞ!はい。あーん」
私のタルトも楽しんでもらおうと彼と同じようにそれを差し出した。
「……朱里」
「ん?あれ?いらない?」
「いや。いただくよ。」
美味しいねと笑う石川くんの破壊力ったらないよ。周りの女の子達がとても羨ましそうだ。
「どう?楽しくなった?」
「うん…なんだか変な感じかな」
「え、それはいい感じなの?悪い感じ?」
「…ははっ…いい感じの方」
「やっぱり!?すごいでしょ!ここのケーキ!!」
連れてきてよかったなんて心の底から思った私に
「楽しいのは…ケーキの力じゃないと思うんだけどね」
ポツリと石川くんが何か呟いたけど、周りの声や音にかき消された
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楽しいティータイムも時間が経てば終わってしまう。ゆっくり食べていたつもりだったのに…最後の一口になっていて名残惜しくも口に放り込んだ。
「美味しかった!お腹いっぱいだよ」
お腹をさすって微笑む私を見て
「ほんとにケーキが好きなんだね」
と石川くんも笑う。
「んー…っていうか食べることが好きなの。幸せになれちゃう!私の欲はほとんど食欲に行っちゃってるのかな」
「……なるほど。納得」
そんな会話をした後、私は時計を確認した。
ああ…長い時間師匠を付き合わせちゃった。お礼とか言ったくせに私の方が楽しんじゃったよ。
「そろそろ行こうか」
「そうだね。」
立ち上がり伝票を持てば、石川くんがその手を掴む
「待って……払うよ」
「だめ!お礼なの!!風邪ひいて送ってもらった上に、こんな重い体運ばせたんだよ?私の気が済まない!」
「……重くないから。ほら」
「授業料も先払いで兼ねてるから。ね?」
全く納得いかないような顔の彼に、私は少し考えた。そしていいことを思いつく
「なら次に来た時お願いしてもいい?」
「え?」
「また息抜きしに来ようよ」
ニコリと笑ったら石川くんはやっとのことで手を離してくれた。
「…次…か。」
「そう次!!約束ね!」
「……わかった」
どことなく嬉しそうな顔をした彼に
そんなにここのケーキにハマったんだ
と紹介したこちらも嬉くなる。
お会計を済ませてお店を出る前に石川くんの方を見て、次はどれにするかなんて話をしようとしたら腕を引かれた。
「危ないよ。ぶつかる」
どうやら前から人が来ていたみたい。
「あ…ごめんなさ…」
謝ろうとした私の目に映ったのは、最悪のツーショットだった。