「わ、私ほんとに刺激的!!?」

「うん。俺の所に来る女の子達はみんな”いい女”を作ってて自分の欲を満たしに来るからね。君は俺といても自分を飾らないし、楽しませてくれるからとっても刺激的だよ」

ああ!これぞ師匠を喜ばせてるという喜び!
胸が張り裂けそうだ!!


「石川くん!!」

握りしめていた彼の服を少しこちらに引っ張って距離を詰める

「…近い距離からどうしたの?」

「私のこと息抜きに使ってくれてぜんっぜんいいからね!!生憎そっちの処理はできないけど、話のボキャブラリーとかは負けないし、後ものまねとかもできるよ!!」

「…ぷっ…ものまねなんかできるんだ」

「うん!!師匠が女の子達に幸せを与えてるなら、弟子の私はその息抜きになるよ!石川くんが楽しめそうなこといっぱい考える!!」



とりあえず今日はその第一弾のケーキだね!


と笑いかけたら彼はとても嬉しそうな顔をした


「そんなこと言ってくれるの朱里だけだよ。」


……あっちの欲を満たされていても沢山相手をしてたらやっぱり疲れちゃうんだね。盲点だった…。


「石川くんだって大変だよね。色んな子を相手にしてたら気力と体力がいりそうだもん。」


私がそう言うと石川くんは困ったような顔をする


そしてポツリと

「女の子達の反応は楽しいはずなんだけどね。」

と呟いた。


楽しいはず?
その言い方だと今は楽しくないみたい。
やっぱりお疲れなのかな?大丈夫かな?

「今日は何もかも忘れて!!ケーキ食べたら楽しくて夢見心地になるから!」

「楽しくなるケーキなんて聞いたことないけど、君が言うとありそうで怖いよ」

「あるよ!!ケーキだ!口の中でトロけるー!たのしぃー!ってなる!」

「ハハッ…無理矢理だね」


無邪気に笑った石川くんに私もついつい笑顔になる。


よしよし。ケーキパワーが炸裂してるな。


そんな喜びを胸に、なるべく早足でお店まで向かった。











やっとの思いでお店に着くと甘い香りに包まれる。ショーケースには季節のタルトが並んでいて私は目を輝かせた。


「うわぁああ!美味しそう!!」

「綺麗なタルトだね。」

「そうなの!チーズケーキもすごい美味しいし、タルトもすごく美味しいからいつも決まらないの!」


よだれが出そうな口元を抑えて、ゴクリと喉を鳴らす。どちらを食べるか決まらないまま、店員さんに中に案内されてしまった。


まだ見つめていたい気持ちはあるけど、それはちゃんと抑えて石川くんと席に着く。


っていうかお水とおしぼりをくれた店員さんは心なしか顔が赤いなぁ。師匠の神々しさが原因だよね。


だけど気になるのは私だけのよう。そんな視線はいつものことだと言わんばかりの彼は


「……俺は楽しくなるチーズケーキにするね。」


ともうメニューを決めてしまった。


「は、はやい!ま、まってね。わ、私はタルト…だけどチーズケーキも…いや待てよ。ああ!いいや!タルトにする!」


師匠を待たせてしまってはダメだ。
と私もさっさと決めてドリンクセットと一緒に注文した。



「…えへへ。楽しみだね。」


早く食べたい。という気持ちでニコリと石川くんに笑いかけたら、笑顔が返ってくる。


「ほんとに楽しみって顔してるね」


彼から来たのは何気ない言葉だった。だけどその言葉で、過去の情景が私の頭の中に思い浮かんでしまったのだ。



「朱里ってほんと毎日楽しそうだよな。お前といるとほんとに飽きないわ。まじで。」


ああ…そうか。この席大ちゃんとも座ったっけ。

未練なんかもうないと言い聞かせても、大ちゃんの存在が私の中で大きいことを思い知らされちゃうな。終わり方があれだったもんね。

あんなに酷いことされたというのにやんなっちゃう。


いつの間にか自分の思い出の中に入り込んでしまったので

「急にしかめっ面になったけどどうかした?」


石川くんに声をかけられてハッとした。


私ってば馬鹿なの!?
目の前にこんなイケメンがいるのに、あんな顔がそこそこの最低浮気男のこと考えちゃうなんて!!!


「なんでもないよ!ねぇ、石川くんって初めてはいつだったの?」


誤魔化すために出た質問は全く店の雰囲気にあっていない。



「…この場所に似つかわしくないことをいきなりぶっこんでくるね。朱里。」

「だって石川くんの原点だよ?きになるじゃん」


けろっとそう発したら石川くんは少し考えて話し始めてくれた


「中三の時に大学生の家庭教師とかな。初めては」

「っ!!!」



師匠の話を聞く前に喉の渇きを癒しとこうと、ちょうど水を飲んでいた。なので思わず、ぶっ!っと吐き出しそうになったではないか。


「か、家庭教師!!?」


レベルが違う……


「勉強終わりに誘われてね。まぁ思春期だったしいいかって思って。」

「彼女とかじゃないんだ。」

「彼女なんていたことがないよ。」

そう言って笑った石川くんに私はあんぐりと口を開けてしまう。


「い、石川くんに彼女がいたことがない!?」


これは…とんでもない情報である。