「ともかく、皆、話を落ち着いて話して、落ち着いて聞こうね」

マスターが言う。

「じゃあ、当事者の話から聞こうじゃないか。優宇。」


楽しかった興奮が冷めやらないのを深呼吸しながら優宇は話しだした。

「とても直人(なおと)さんが優しくて、色々なところが直人(なおひと)さんとダブるんですけど、それでも直人(なおと)さん自身にとても魅力を感じました。」

「では、直人くんの方はどうかな?」


「俺は、」

「いやー、聞きたくない!」

沙子が泣き叫ぶ。

「はいはい、泣かない泣かない。今日は一旦帰ろうか」

「皆、ちょっとテンションが上がっちゃっているからね」

泣きながら何も言えない沙子にマスターが言った。

「何もまだ決まってないし、明日何が起こるかなんてわからないんだから、今をきちっと生きなきゃね。沙子さんは直人くんの恋人だろ。送ってもらいなさい」


「え、いや、今日は悪い。沙子、一人で帰ってくれないか」


大泣き寸前の沙子に園原がなだめつつ、明るい時間だから大丈夫だよね、と店から帰した。



「優宇も帰りなさい。今日遊んだ分、弟くんの世話を手伝ってくださいよ」

何か言いたげにしながらも、優宇は店を後にした。

「話があるんでしょ。直人くん」


無言の直人。


「んーちょっと早いけどクローズしましょうね。さ、カウンターに座って」

無言のままマスターの正面に座る直人。


「で、飲み物は?コーヒー?紅茶?優宇ティー?」

「ぶっ、それなんですか」


「秘密のメニューなんだけどね、優宇が好きなハーブのミックスティーだよ。彼女は元気がないときによく飲みに来てたよ。」


「じゃ、それを」

「お目が高いね」

「どうだった、って聞くまでもなかったね」


「何で、沙子はあんな……」

「君が優宇を見る目が不信じゃなくなっているからだよ。沙子さんも分かったからあんな風に泣いたんだろうね」

「それだけでですか?」

直人は目を見開いた。

「女性はそういうところ敏感だからねぇ。それに君たちわかりやすかったよ」

「で、きみはどっちと付き合うの?」

「それは、沙子に決まって」


と言うと、ふと何を思ったのか、握った手を胸にあてて、下を向いた。

「決まってない……」


「俺は一日しか優宇のことを知らない。でも、もっと知りたいと思った。喜ばせてやりたいと思ったんだ」


「そうだろうね」

「そうだろうねって、何で言えるんですか?」

「今世で会うのは魂のつながりがあるからなんだ。それが元恋人同士で出会うといい確率で恋人同士になる」

「沙子は?」

「もちろん、沙子さんがのけものというわけではなく、魂の関わりがあったからこそ出会ったんだろう。」


園原は話し続ける。

「ただ、今は前世ではない。そんなことおいておいて好きだーって思いを好きな人に伝えればいいさ。現代日本、自由に恋愛ができる時代だからね」