「前世?」
話を一通り聞き終えた直人の恋人沙子は、それだけをつぶやいて無言になった。
喫茶「Garden」には、マスター園原、直人、優宇、そして沙子が集まってこれまでの経過を話していた。
優宇が身をのりだして、
「わかった?だから直人さんのこと、ゆずってくれない?」
「ばかなこと言わないでよ」
「ばかなこと言うなよ」
直人と沙子が同時に言うが、沙子の方がいきりたち、席を立った。
「ゆずってくれない?前世の約束があるから?そんなの何よ、恋愛でもなんでもないじゃない」
沙子さらに続けて言う。
「私は直人が好きで付き合っているのよ。もちろん今は大学生だから結婚なんて考えにくいけど、ずっと付き合っていたらそういう可能性だってあるじゃない」
マスターがそっとお冷を渡す。
その動作ではっとなり、沙子はお冷を二口飲んで、椅子に腰かけた。
静かになった店内にマスターの声が響く。
「優宇も先走り過ぎだ。お前もこの人生を生きるために生まれたんだよ」
「はい……」
シュンとした優宇に、沙子が思いもかけない提案をした。
「私は前世を信じない、これ以上付きまとわれても困るの。だからこれは直人の恋人をはっきりさせるいい機会だと思う」
「私は直人が好き。直人(なおひと)ではなく、今の、ここにいる直人が好きなの」
真に迫る目に優宇はたじろいだ。
「あなたはどうなの。前世とやらで見つけた”今”の直人(なおと)についていったいどう思っているの?」
「……」
優宇は無言のまま視線を左右に動かした。
「私は」
「ちょっと待てよ、オレの話も聞いてくれ」
直人が話に入ってきた。
「俺は優宇さんの言う直人(なおひと)さんとは別人だよ。王城直人(おうじょうなおと)って名前で今を生きている。例え前世で契りを交わしたからといって、今の生き方を変える気はない。そのうえで優宇さんの話を聞きたいと思う」
強い調子で発せられた言葉を聞いて、
優宇は直人(なおと)が直人(なおひと)だったことを覚えているのではないかと思った。
強いまなざし、自信をもった物言い、それはこれまでの直人(なおと)と違い、直人(なおひと)にそっくりだったのだ。
(私、直人(なおひと)さんの生まれ変わりだから当然のように分かってくれると思ってた。直人(なおと)さんがどんなひとかなんて知らないで、前世の約束の人に会えただけで嬉しくて、周りが見えなくなっていた)
「……はい」
優宇はうつむき加減で小さくつぶやく。
そして何を思ったか、直人と沙子を見て頭を下げた。
「お願いします。直人(なおと)さんと一日過ごす時間をくれませんか。私は今まで直人(なおひと)さんのことで頭がいっぱいでした。だから、直人(なおと)さんと過ごすことで直人(なおひと)さんとは違うってことを実感したいんです」
「その日1日を一緒に過ごしたら、もう私たち2人にかまわないでくれるわね」
と、沙子。
そして直人も。
「そういう約束にしてくれるなら、1日君と付き合うよ」
「はい、それでいいです」
しぼんだ風船のように優宇はうなづいた。
「それで決定だね」
と、見守ってくれていた園原が言った。
「早いほうがいい。次の日曜日にしよう」
カレンダーを見上げながら直人が言った。
話を一通り聞き終えた直人の恋人沙子は、それだけをつぶやいて無言になった。
喫茶「Garden」には、マスター園原、直人、優宇、そして沙子が集まってこれまでの経過を話していた。
優宇が身をのりだして、
「わかった?だから直人さんのこと、ゆずってくれない?」
「ばかなこと言わないでよ」
「ばかなこと言うなよ」
直人と沙子が同時に言うが、沙子の方がいきりたち、席を立った。
「ゆずってくれない?前世の約束があるから?そんなの何よ、恋愛でもなんでもないじゃない」
沙子さらに続けて言う。
「私は直人が好きで付き合っているのよ。もちろん今は大学生だから結婚なんて考えにくいけど、ずっと付き合っていたらそういう可能性だってあるじゃない」
マスターがそっとお冷を渡す。
その動作ではっとなり、沙子はお冷を二口飲んで、椅子に腰かけた。
静かになった店内にマスターの声が響く。
「優宇も先走り過ぎだ。お前もこの人生を生きるために生まれたんだよ」
「はい……」
シュンとした優宇に、沙子が思いもかけない提案をした。
「私は前世を信じない、これ以上付きまとわれても困るの。だからこれは直人の恋人をはっきりさせるいい機会だと思う」
「私は直人が好き。直人(なおひと)ではなく、今の、ここにいる直人が好きなの」
真に迫る目に優宇はたじろいだ。
「あなたはどうなの。前世とやらで見つけた”今”の直人(なおと)についていったいどう思っているの?」
「……」
優宇は無言のまま視線を左右に動かした。
「私は」
「ちょっと待てよ、オレの話も聞いてくれ」
直人が話に入ってきた。
「俺は優宇さんの言う直人(なおひと)さんとは別人だよ。王城直人(おうじょうなおと)って名前で今を生きている。例え前世で契りを交わしたからといって、今の生き方を変える気はない。そのうえで優宇さんの話を聞きたいと思う」
強い調子で発せられた言葉を聞いて、
優宇は直人(なおと)が直人(なおひと)だったことを覚えているのではないかと思った。
強いまなざし、自信をもった物言い、それはこれまでの直人(なおと)と違い、直人(なおひと)にそっくりだったのだ。
(私、直人(なおひと)さんの生まれ変わりだから当然のように分かってくれると思ってた。直人(なおと)さんがどんなひとかなんて知らないで、前世の約束の人に会えただけで嬉しくて、周りが見えなくなっていた)
「……はい」
優宇はうつむき加減で小さくつぶやく。
そして何を思ったか、直人と沙子を見て頭を下げた。
「お願いします。直人(なおと)さんと一日過ごす時間をくれませんか。私は今まで直人(なおひと)さんのことで頭がいっぱいでした。だから、直人(なおと)さんと過ごすことで直人(なおひと)さんとは違うってことを実感したいんです」
「その日1日を一緒に過ごしたら、もう私たち2人にかまわないでくれるわね」
と、沙子。
そして直人も。
「そういう約束にしてくれるなら、1日君と付き合うよ」
「はい、それでいいです」
しぼんだ風船のように優宇はうなづいた。
「それで決定だね」
と、見守ってくれていた園原が言った。
「早いほうがいい。次の日曜日にしよう」
カレンダーを見上げながら直人が言った。