それから、俺は遥香を直輝に任せて車を病院の入口までまわした。



「遥香、直輝乗って。」



「「はーい。」」


「遥香?」



俺は、遥香が浅い呼吸になっていることに気付いた。



「直輝、遥香発作起きたのか?」



「え?」




「ちょっと、苦しいだけ…。」




「吸入しようか。直輝、これ持ってて。」



遥香の荷物を直輝に任せて、俺は遥香に吸入をさせた。



「はるちゃん、大丈夫?」



遥香は、直輝の言葉に頷いた。



どう見ても、大丈夫とは言えない。



「ちょっと、休もうか。」



「大丈夫、帰れる。」



「遥香、無理はするな。」



「俺が、遥香ちゃんのこと後ろで見てるよ?」



「発作がまた出るかもしれないから…」




「喘息のことは、1年のうちに習ったから少しは対応できると思う。」



「分かった、直輝ちゃんと遥香のことを見ててくれ。発作が起きたら吸入して。」



「分かった。」



「遥香、立てるか?」



「うん…」


遥香は、立ち上がろうとしたけどふらついた。


すぐに抱きとめたから、転ばずには済んだ。


「ちょっと無理そうだな。遥香、抱くよ?」



「え!ちょっ!ここで?」



「何?恥ずかしがってるの?」



「恥ずかしいに決まってるよ!」



恥ずかしがってる遥香をお構い無しに、俺は遥香を姫抱きにした。



それにしても…



また軽くなったな…。



元から軽いのに…



ちゃんと食べてなかったんだろうな…。



俺は、遥香を後部座席に乗せてなるべく楽な体位に整えた。



「じゃあ、出発するよ。」



俺は、そう言ってから車を走らせた。




それから、直輝を家に送り届けてから無事に家に着いた。



遥香は、深い眠りに入ったままで発作も起きる事は無かった。



遥香を起こさないように、再び姫抱きにしてベットに寝かせた。



「ちょっと聴診しておくか…。」



寝ている遥香には悪いけど、俺は遥香の胸の音を聞いた。



音には雑音があって、呼吸するのが苦しそうだった。


可哀想だけど起こすか…。



「遥香、起きて。」



肩を揺すっても、全く起きない遥香。



相当、睡眠時間が取れてなかったんだろうな。



少し、様子見でいくか。



それから、俺は遥香の眠る横で遥香のドナーになってくれる人を探した。



俺のパソコンには、病院に運ばれた脳死判定を受けた人が登録されている。



脳死判定を受けた人の心臓を、遥香に移植ができる。



正直、遥香の心臓はここ半年で大分弱っている。



なるべく早く、移植をした方がいい。



だけど、1つ問題があった。



それは、遥香の体力がもたないかもしれないということ。



体重もあまりないし、喘息もあるから難しい手術になる。



色んなリスクはあるのかもしれないけど、俺は遥香の命を助けたい。




遥香にはまだまだ長生きをしてほしい。




俺の専門は呼吸器系だから、心臓の手術は専門家に任せた方がいい。




そうなると、俺の親父に頼むしかない。



親父は、心臓手術のスペシャリストで色んなテレビやら、雑誌、新聞に取り上げられていた。




だから、遥香の手術も安心して任せられる。



俺は、親父の助手として入ろう。




まだ、受け入れる覚悟が遥香にはないのかもしれない。




手術に関しても、傷が残ることも。




遥香は、お腹に刺された傷跡を気にしている。



だから、また胸に傷がつくことを気にしてしまうかもしれない。



そんな事を考えていると遥香は目を覚ました。



「遥香?苦しい?」



胸に手を当てる遥香の姿を見て焦った。




「ちょっとだけ…」




「薬飲めるか?」




そう言って、俺は水と薬を遥香に渡した。




「大丈夫?」



「うん…。」



「遥香、明日は大学休もうか。」



「え!」



「体調悪いみたいだから。」




「休めないよ…。」



「ダメだ。」



「なんで?」




「遥香…もう少し、自分の身体を大切にしてくれ。遥香は、自分に厳しすぎるんだよ。自分に負荷をかけて無理しちゃうだろ。勉強も大切だけど、遥香の身体の方がよっぽど大切だよ。」




「私は、ただでさえ病気のせいで勉強もみんなより遅れてるの。このままだと、私は本当に医者になれるか分からない。それに、私…本当に医者を目指してよかったのかな…。私、向いてないのかもしれない。進路選択、間違えたのかもしれない…。」



「遥香!」



俺は、遥香の一言一言が胸に突き刺さった。


遥香は、ここ3ヵ月色んなことを溜め込んでいた。



そのことに、気づいてやれなかった。




激しい後悔が俺を襲った。



「ごめん、尊…。言い過ぎた…。」




「いや、謝らなくていいんだ。ちゃんと、溜め込んだものを吐き出してくれた方がいいから。俺も、遥香の苦しみに気づいてあげられなくてごめんな。だけど、遥香。これだけは忘れないで欲しい。医者に向いているか向いていないかは、周りの尺度で決めることじゃないよ。遥香がなりたいっていう気持ちが大切なんだ。周りと比べなくていい。遥香は、遥香のペースで自分の道を切り開いていけばいい。遥香の将来は遥香にしか切り開けられないんだから。俺は、遥香にそれができるようにサポートしていく。だから、もう1人で決めたり溜め込んだりするな。いつも言ってるだろ?辛かったら、俺のところに来い。」



俺は、遥香を抱きしめながら言葉にした。



「目指していいのかな?私にも、なれるチャンスあるのかな?持病があっても、私が努力すれば、尊みたいな立派な医者になれる?」



「当たり前だ。遥香は、きっと立派な医者になれる。いい医者になれるよ。だから、自分を信じて。だけど、体調が悪い時はゆっくり休むことも必要だよ?」




「分かった。私、頑張るから。」



遥香のことをこれから先も見守っていこう。


支えることができるように、俺なりにサポートしていこう。



俺も、遥香の未来に一緒に寄り添いたい。