「いや、俺の方こそごめんな。遥香、悩んでいることあったのに、気づけなくてごめん。」




「尊、私ね。もうすぐ実習が始まるの。それで重なる課題と段々難しくなってきた授業が、平行して取り組めていないと思うの。だから、尊どうすればいいのかな。」




遥香の声は、切羽詰まっているようだった。




「遥香。今は、やることたくさんあって、実習に向けての課題も大変なんだろうけど、遥香は乗り越えていかないといけない。その課題からは、逃げてはいけない。でも、1人で抱え込むな。俺に出来ることがあるかもしれない。遥香、分からないことがあるなら、俺に聞いて。」




「分かった。ごめんね、尊。私、今まで尊に何度も同じこと言われてきたのに、どこか尊に気を使って、言えなかった。そんな関係、望んでないもんね。」




「そうだよ。気を使って一緒に暮らしていると遥香が疲れるだろ。俺自身も、遥香といる時だけは、素でいられるんだ。だから、俺の前では無理して隠さなくていい。もっと自分をさらけ出して、頼ってほしい。俺は、そういう関係が本当の家族だと思うよ。」




「家族?」




「あぁ、遥香は俺の大切な家族の1人だから。」





「ありがとう、尊。」




「ほら、泣いてると呼吸が苦しくなっちゃうよ。ちゃんと顔を上げて講義頑張りな。」



「うん。」



「それから、今日は当直じゃないから、早めに帰るな。」



「いいよ?無理しなくても。」




「ばかだな…。遥香に会いたいから。それじゃあ、何かあったら連絡してね。」





「うん。」




それから、遥香の電話を切ってから、外来の診察へと向かった。



仕事の前に、遥香の声が聞けて、一安心だった。


この時はまだ、考えてもいなかった。




これから、遥香に更なる重大なことが襲いかかるなんて。