それから、退院の日になった。


朝、目を覚めてから私はベッドの上でじっとしていることが嫌で、廊下へ散歩に出かけたりしていた。


私は、朝からずっとこんな感じで、外に出られることがたまらなく嬉しくて、落ち着いていられなかった。

「こんなに喜んでる遥香ちゃん見るの、初めてだわ。」



近藤さんが、驚くのも無理ない。



私は、あまり自分の気持ちを面に出してこなかった。



だけど、今は再び外の世界に出られることがたまらなく嬉しかった。




ここに来る前まで、呼吸することでさえ苦しかったのに、今はとても空気がおいしく感じて、自分に自由が効くことを、身をもって感じた。




そうは言っても、まだまだ私には乗り越えなければいけない試練はたくさんある。




それに、生活をする上で様々な制限もある。

太陽が、沈み始めた頃。



「遥香、帰ろう。」




尊は、自分の仕事を早めに終わらせてくれて、私は尊と一緒に家へ帰った。



「遥香ちゃん。」




「あ、お父さん。」




私は、あの診察の日以来、尊のお父さんを先生呼びじゃなくて、『お父さん』と呼べるようになった。



「退院、おめでとう。」



お父さんは、そう言って、私に小さくて綺麗な花束をプレゼントしてくれた。




「え、これ…」



「退院祝い。女の人に、こういう花束とかプレゼントしたことないから、センス悪かったらごめんな。」




「嬉しいです…。ありがとうございます。」




「よかった。遥香ちゃん、俺がこの前話した条件、覚えてる?」




「はい。」




「1人で抱え込まず、体調が悪くなったりしたら必ず尊に言って。必ず、それは約束して。」



「大丈夫です。ちゃんと、尊に言います。」



「それならよかった。」



尊のお父さんは、優しく微笑んでから頭を撫でてくれた。




「親父、遥香にボディタッチ多すぎ。遥香、もう帰るよ。」





「ごめんな、中々独占欲の強い息子で。安心しろ、遥香ちゃんを取ったりしないから。」




「親父には、お袋がいるもんな。遥香、ちょっと抱くよ。」



「え?」



理由を聞く前に、私の体はフワッと持ち上がり、気付いたら尊の腕の中にいた。




「まだ、血圧が低いし体力も戻ってないから、念のために。さぁ、帰ろう。」



「絶対、そんなの口実でしょ。」




「うるさい。」



尊の額が、私の額に重なり、吐息が顔にぶつかるくらいの近さに、私の心臓の鼓動は一気に加速をした。



「尊、顔近いよ…。」




「ふふ。親父、遥香のこと助けてくれてありがとう。」




「あぁ。これからも、2人で支えあっていくんだよ。それから、尊。遥香ちゃんのことしっかり守ってやれよ。」



「もちろん。」




「遥香ちゃんも、お大事にしてね。」



「はい。」