尊は、私の傷を服の上からなぞり、頭を撫でてくれた。



「よく頑張った。」



そう言って、抱きしめてくれた。



私も、それに返事をするように尊を抱きしめる力が少しだけ強くなった。




「だから、これからはちゃんと傷口の様子を見せてね。」



「うん。」


私は、しばらく尊に身体を任せていた。


「尊?尊はどうして呼吸器内科に勤めようと思ったの?」



私は、尊の上に乗っかったまま質問をしていた。




「唐突だな…。んー、そうだなぁ…」




「うん。」




「俺が、小さい時にマイコプラズマ肺炎で入院した時があって。その時は、小児科じゃなくて親父のいた呼吸器内科へ回されたんだ。そこにいる患者さんと出会ってから考えるようになったんだ。呼吸が苦しそうな人を見ていたら、この人たちのために何が出来ることは無いかって思って。それで、呼吸器系を中心に勉強していたら、夢中になっちゃってね。それで、呼吸器内科に入ったんだ。」



「そうなんだ…」




「今は、そのおかげで遥香にも出会えたからやっぱり運命だったのかもな。」



「そしたら、私は喘息があったから尊に会えたんだね。」



「嫌なことばかりじゃないだろ?少しでもプラスに考えると前が向けるんだよな。」



そう微笑んで、私の頭に手を乗せた。


確かに、プラスに考えると喘息があったから尊に会うことができた。



私は、尊に会えなかったらって考えるとぞっとするくらい怖い。



きっと、2度と笑うこともなかったと思う。



人の温もりを感じることなく生きてきた私は、ずっとそのままだったのかもしれない。



誰かに肩を支えられていたとしても、ここまで心が穏やかになっている事はきっとない。



そう言いきれる。



だって、私を今のように変えてくれたのは尊だから。



それは、尊にしかできなかったと思う。