ーside尊ー

その日から、遥香の入院生活が再び始まった。



幸い、遥香の心臓と千里さんの心臓は合うかもしれない。



はっきりとした事は、移植をしてからでないと分からないけど。




手術は、2週間後になった。




それまでの期間は、遥香に体力をつけてもらうようにリハビリや食事療法が始まった。




遥香は、運動は比較的好きな方だけど食事の方ではかなり辛そうだった。


俺も、できる限りは遥香の食事を見守ったけど戻すことの方が多く、余計に体力が奪われていった。



「遥香、少し…やめるか?」



「え?」



「食事療法の方。ほかの方法で、体力をつけよう。もう、無理して食べなくていいから。」




「…体重は?増えた?」




「…それが…入院の時から3kgは減ってる。だから、これからは点滴で栄養を入れていくな。」




「…点滴…」



「遥香?」



「点滴…やだ。」



「自力でご飯食べられないなら、点滴しかないよ?」



遥香には、申し訳ないけど点滴を断ってほしくなかった。



できれば、頑張ってほしい。



じゃないと、遥香は手術に耐え切れる身体にならない。




「嫌なものは嫌!」




手術の日程が改めて決まってから、遥香は少し情緒不安定な所がある。




不安なんだろうな…。



できる限りは、遥香に寄り添っていくつもりだ。




遥香の不安を少しでも取り除ければいいんだけど…。



手術をすることに、変わりはないから遥香自身の根っこからの不安を取り除く事はできない。




「遥香、ちょっと痛いけど我慢してな。すぐに終わらせるから。」



「…分かった。」



少しだけ、目に涙をうかばせながらも、素直に腕を出してくれた。



それが、たまらなく可愛いと思えて、正直今すぐここで襲ってしまいそうで怖いくらいだった。




まぁ…



遥香は、今治療に頑張ってくれてるから、俺も理性を抑えていかないとな。



自分の気持ちにセーブをかけて、遥香の傍で支えていこう。



「よく頑張ったな。」




針を挿し終わってから、遥香の頭に手を乗せた。



「尊。」



「遥香。」




遥香に不意に抱きしめられたことで、俺の心臓の鼓動はうるさいくらいに波を立てた。



こういう、可愛いことをされると、俺も冷静でいられなくなる。




気づいたら、遥香の唇を奪っていた。




「…んっ!」



「ちょっと…まだ…治ってないんだから…」



やっちまった。



遥香の息があがっている。




「遥香が悪い。俺のことかき乱して。」



「近いよ…」




「ん?まだ言うならキスするぞ?」



「分かったって。」



「よし、今日は何もないみたいだから、ちゃんと寝てるんだよ。」




「はーい。」




「体調悪くなったら、我慢しないで必ずナースコールしてね。」




「尊?」



「ん?」




「今日は、いつも通りの時間?」



「あぁ。だけど、午前の診察が終わればお昼にはここに戻れるよ。」



「分かった。」



「それまで、いい子で待っててね。」



「もー!子供扱いしないで。」




「はいはい。」


満面な笑みを浮かべて、俺は遥香の部屋を後にした。




最近は、不安を隠さず俺に話してくれる。



それが、安心できる。



不安を隠されると、気づけないこともある。




遥香に、我慢をさせるくらいなら、遥香自身から話してくれた方がよっぽどいい。




大切な、彼女のために俺に出来ること。



それが、話を聞くこと。




俺は、変わってやる事はできない。




だけど、遥香の不安な気持ちになら向き合える。




辛い思いを1人でしないように。




ずっとずっと、守っていく。