何も言えなかった。


だって、お姉さんを私のために臓器移植のドナーに回すってことだよね?



千里さんの、身体を傷つけてしまう。



「遥香の中で、お姉ちゃんが生きることができるの。だから、お願いします。遥香にも、生きてほしい。遥香は、隠してるつもりだったんだろうけど、私気づいてた。もしかしたら、遥香の心臓は、段々と弱ってきているんじゃないのかなって。できるなら、早くドナーが見つかって、遥香に元気な生活を送ってほしかった。だから…どうかな?」





「でも、私…いいのかな?大事なお姉さんの心臓もらっちゃって。もっと身体が強い人の方がいいんじゃないのかな…」




私より、よっぽど必要としてくれる人はたくさんいる。




前から、移植を待っている人だっている。



それなのに、私は先にもらえない。




「遥香。ちょっと、顔あげろ。」



私は、尊に顎をすくわれ視線を捉えられた。



「遥香は、最優先に移植をした方がいいって会議でもそう言われたんだ。遥香は、気にすると思って言えなかった。遥香の身体に合うか合わないかは、詳しく調べてみないことには分からないけど…頑張ってみないか?」




1ミリも外すことなく、尊は真剣な瞳だった。



「遥香…お前に、長生きしてほしい。」




「遥香ちゃん…それでいいかな?」





「…はい。」



私は、千里さんの分も生きていこう。



千里さんが、私の中で生きられるならそれでいい。



この日、私は移植を受けることを決意した。