教室の中はすっかり静かになってしまった。
柔らかな日差しがさす窓の向こうからは、はしゃぐ生徒たちの声が聞こえてくる。
僕はこの一年間を共に過ごした席に座って頬杖をついたまま、その光景を眺めていた。
が、それは不意に吹いた風によって遮られた。
窓際のカーテンが揺れる。
カサリと僕の頬に当たって、また吸い込まれるように元の位置へと戻っていった。
「ねえ、葉くん」
耳元で甘く囁くように僕の名前を呼ぶ、女の子。
紺のセーラー服を纏った彼女の名は、可奈子。
「卒業式なのに、誰ともお別れしないの?」
「別に。仲の良い人とかいないし」
「寂しいねえ」
「誰のせいだと思ってんだ」
「え、まさか私?」
「そのまさかだよ」
意外そうな顔をする可奈子にため息を吐く。