今日が球技大会で良かった。

一日椅子に座ってるより、体を動かしてる方が幾分か気分は晴れる。

授業だったら色んなことを考えて、どんどん気分が落ちて。

放課後には自分を保てなくなっていたかもしれない。

それぐらい葉山の絶対零度の横顔は私にダメージを与えていた。



「おい綾音!さっきの試合、何だよ!」


ドッヂボール一回戦、うちのクラスはギリギリで二年生に勝った。

だけど、私は最悪。

体を動かしてる方が楽だけど、それでも調子は上がらない。

すぐに当てられて外野。
外野でも活躍出来ず、そのまま試合終了。
細井に怒鳴られるのも無理はないぐらいに足を引っ張った。


「ごめん…」


シュンと肩を落として、素直に謝る。


「なんだよ。お前が素直だと気持ち悪いな」

「うん…ごめん」


憎き細井に気持ち悪いって言われても今は怒る気にもなれない。


「今朝のこと気にしてんの?」

「……細井には関係ないじゃん」


今はその事を聞かれたくない。

そっとしておいてほしい。


「関係あんだな、これが」

「は?」


隣りに立つ細井を怪訝な顔で見ると、細井はいつになく真面目な表情で私を見据えていた。


な、何…?なんでそんな目で見てんのよ……

細井が放つ異様な空気に飲み込まれそうになって、顔をパッと逸らした。


「なぁ、今日休みがいてサッカーの人数が足りないから俺が助っ人に出んだけど」

「それが?」

「順調に進めば準決勝で葉山部長のクラスと当たる」


葉山の名前にビクッと肩を揺らす。


「応援来いよ」

「応援…?」


その時、葉山の手紙が頭の中に浮かんだ。

【もちろん観に来てくれんだろ?綾音が応援してくれたら俺、めちゃくちゃ頑張れるんだけど】


そうだ、葉山と約束したんだ。

葉山を応援するって。
私は葉山の専属応援団長なんだ。


でも、今この状況で葉山を応援しに行ったらどう思うかな。

私の顔を見たくないかもしれない。

声も聞きたくないかもしれない。

そんな時に行ったら、また葉山が遠くなってしまうかもしれない。